<諸刃の刃・危険な実験 -其の6>~感覚遮断実験・快適な環境でも刺激がなければ人は狂う?!

人間に害を及ぼすと思われていたストレスが、
心身のバランスを保つのに重要。
人間の感覚・知覚機能は、
実は日常で感じている様々な刺激を察知することで、
正常に維持されている、
もしくは研ぎ澄まされているといえる!?

捕虜の心理研究から始まった

1950年代、
アメリカでは中央情報局(CIA)を中心に、
年間10億ドルもの費用を投入して奇妙な実験を行っていました。

それは、
「完全に感覚を奪われると、人はどうなるのか」
を調べるという感覚遮断実験でした。

実験のきっかけは朝鮮戦争でした。

戦争で捕虜となって洗脳されたアメリカ兵を調べたところ、
感覚を遮断するような環境に置かれていたことが明らかになり、
その真相を探るべく研究が行われるようになったのです。

また、
当時準備段階であったアポロ計画にも実験は役立てられようとしていました。

狭くて孤独、
しかも変化が乏しい宇宙船で過ごす宇宙飛行士の精神状態を知るのに、
感覚遮断は必要な研究だったのです。

この人体実験はマギル大学の心理学科長ドナルド・ヘップが最初に実行しました。

1951年、
ヘップは男性の大学院生に20ドルという高賃金でアルバイトを募り、
次のような実験を行ったました。

まず、
被験者を60ワットの電球が照らされた半防音式の、
ベッド一つほどしか置けない小さな部屋に閉じ込める。
目には半透明なゴーグルをかけさせ、
エアコンのノイズ以外は聞こえないようにし、
腕から指先は大きなボール紙の筒の中で覆う。
後は室内でひたすらベットに横になり、
過ごしてもらう・
それだけでございます。

しかも、
食事はきちんと与えれ、
トイレも自由に行っていい。

洗面所などを使うときは他の人間が付き添ったし、
実験室の外にいる実験者ともインターホンで話せるようになっていました。

つまり、
感覚遮断といっても完全な孤独の環境ではなかったのです。

にもかかわらず、
被験者は衝撃的な変化を見せていきます。

徐々に独り言が増え、
急に歌い出したり、
口笛を吹いたりと妙な行動を取り出しました。

さらに時間が経ってくると、
知能検査で成績が低下。
最終的には全員に、
幻聴や幻覚が現れ始めたのでした。

結局、
被験者は耐えられずにリタイアし、
6週間の予定だった観測は2、3日で終了しました。

ストレスがゼロになると狂う?

実験の結果は、
研究チームの1人であった大学院生ウッドバーン・ヘロンが論文に記し、
1957年、
アメリカの科学雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」に掲載されたました。

まず、実験で明らかになったのは、
人間に害を及ぼすと思われていたストレスが、
心身のバランスを保つのに重要だということです。

被験者の環境は、
感覚が遮断されている以外は快適でした。

温度も湿度も調整された部屋は、
狭いが決して過ごしにくくはない。
しかも、
ずっとベッドに横になって眠るという非常に楽な内容で、
不快な音も目障りな物も入ってこない。
逆にリラックスできそうなものであります。

しかし、
ほとんどの被験者が思考力や学力の低下を示して幻覚症状に悩み、
耐えきれなくなった。
ということは、
人間の感覚・知覚機能は、
実は日常で感じている様々な刺激を察知することで、
正常に維持されている、
もしくは研ぎ澄まされているといえるのです。

不必要と思っている日常の繰り返しが、
実は感覚・知覚にとって非常に重要で、
自分の価値観の支えとなっている。
過度なストレスは体に毒だが、
何もしないということも、
心身に恐ろしい影響を与えてしまうようです。

「この実験は拷問である」

しかも、
外界からの刺激がなくなって知覚機能が低下すれば、
さらなる問題が生じる。

恐ろしいことに、
他人にコントロールされやすくなることも、
実験結果は示していたのです。

ヘップはこの環境下で、
別の実験も実施しました。

普段なら学生たちが反発を覚えるような、
オカルト的な内容の録音をきかせたのです。

すると驚くことに、
学生たちはそれを容易に受け入れたのです。

被験者たちは外部からの刺激を渇望するあまり、
どんな情報でも受容するようになっていたのです。

なかには実験終了から何週間も、
考え方が非現実な傾向のまま戻らなくなってしまった者もいたといいます。

薬も催眠術も使わない2日程度の感覚遮断だけで、
今まで彼らが培ってきた情報や経験が簡単に消去されていく、
しかも、
脳に入ってきたあらたな情報は、
やすやすと刷り込まれる。

人間のアイデンティティーそのものが崩壊する実験結果に、
ヘッブは驚愕した。

人間を、
たった48時間程度で、
重度の精神疾患と似た状態に追いやることができるとわかったからです。

洗脳に利用された感覚遮断

幸いにも、
ヘッブは良心と常識を持っていました。
軍事的に利用しようなどとは思っていなかったし、
最初から悪用するつもりもなかったと答えています。

ところが、
非常に問題のある医師がヘップの実験に目をつけてしまった。
それが心理学者ユーイン・キャメロンです。

ヘッブの同僚であるキャメロンは、
この実験により「悪魔の医師」としてその名を黒い歴史に刻むことになります。

キャメロンがCIAから研究資金を受け取ったのは、
ヘップの実験から6年後の1957年。

彼はこの資金を投入し、
マルギ大学附属アラン記念病院の一部を改造して特別施設を設け、
自分の患者を隔離しました。

そしてヘップの実験に幻覚剤「LSD」や電気ショックを組み込んで、
バージョンアップさせた感覚遮断実験を、
無断で行ったのでございます。

キャメロンは患者に投薬して暗示にかかりやすい状態にし、
その上で新しい人格を植え付けました。

彼はこれを「正しい治療」とアピールしたが、
実際には実験はことごとく失敗し、
一生人間らしさを取り戻せなくなる患者も多かった。

それでも、
CIAはこの危険な実験のために1962年まで研究資金を提供しました。

本当の目的は定かではないが、
軍の拷問プログラムに取り入れられたという説も、
まことしやかに囁かれています。

ちなみに、
キャメロンは1967年、
山登り中に心臓発作を起こし死亡しています。

一方、
この感覚遮断実験について、
ヘップは1985年に行われた人生最後のインタビューで、
こう答えています。

「これ(感覚遮断実験)が実に恐るべき尋問技術であることは明らかだった。
キャメロンは無責任な犯罪的なまでに愚かだった」

現在、
非人道的な結果を招いた感覚遮断実験は全面的に禁止されています。

最後までお読み頂きありがとうございます。
皆様に幸ありますように!

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コメント

  1. けつらく より:

    『封印された科学実験』
    (2016年出版、彩図社)
    ですね?面白いですよねあの本、他にも面白い本があればご紹介ください^^